【VRChat】デバッグとテストの基本:Debug.Log・ClientSimの使い方

作成: 2025-12-19

UdonSharp開発における問題解決と品質向上の技術。Debug.Logの活用、ClientSimでのマルチプレイヤーテスト、デバッグUI作成のベストプラクティス。

概要

素晴らしいアイデアを形にし、ギミックを実装しても、必ずと言っていいほど「思った通りに動かない」という壁にぶつかります。プログラムの誤り(バグ)を見つけ出して修正する作業をデバッグと呼び、完成したギミックが様々な状況で正しく動作するかを確認する作業をテストと呼びます。これらは、ワールドの品質を保証し、訪れたプレイヤーに快適な体験を提供するために不可欠なプロセスです。

UdonSharpにおけるデバッグとテストは、Unity標準の機能に加え、VRChat特有のネットワーク同期やプレイヤー間のインタラクションを考慮する必要があり、いくつかのコツが必要です。

本記事では、UdonSharp開発における基本的なデバッグ手法と、効率的なテストの進め方について解説します。

1. Debug.Log(): 最も基本的なデバッグ手法

Debug.Log("メッセージ");は、指定したメッセージをログに出力する、最もシンプルかつ強力なデバッグツールです。

  • 変数の値の確認: Debug.Log($"現在のスコア: {score}"); のように、変数の値をログに出力して、計算が正しいかを確認する。
  • 処理の通過確認: Interactイベントの先頭にDebug.Log("Interactイベントが呼び出されました"); と記述し、そもそもイベントが発生しているかを確認する。
  • 条件分岐の確認: if文の各ブロックでログを出し、どちらの分岐に入ったかを確認する。

ログは、Unityエディタでの実行中はConsoleウィンドウに表示されます。VRChatクライアントで実行した場合は、PC内のログファイルに記録されます。まずはエディタ内でDebug.Logを仕込み、プログラムの動作を一つ一つ追跡するのがデバッグの第一歩です。

public override void Interact()
{
    Debug.Log("Interact開始");
    if (isReady)
    {
        Debug.Log("isReadyはtrueでした。処理を実行します。");
        // ...処理...
    }
    else
    {
        Debug.Log("isReadyはfalseでした。処理をスキップします。");
    }
    Debug.Log("Interact終了");
}

2. ClientSim: ローカルでのマルチプレイヤーテスト

ネットワーク同期が絡むギミックのデバッグは、一人でテストしているだけでは困難です。他のプレイヤーが参加した時にどう動くか、所有権の移動は正しく行われるか、といった問題は、複数人環境でしか表面化しません。

しかし、毎回Unityでビルドし、VRChatクライアントを複数起動してテストするのは非常に時間がかかります。そこで絶大な効果を発揮するのが、VRChat公式ツールのClientSimです。

  • 機能: Unityエディタ内で、擬似的な複数のプレイヤー(クライアント)を起動し、マルチプレイヤー環境をシミュレートします。
  • 利点:
    • ビルド不要で、素早く同期テストを開始できる。
    • MasterクライアントとGuestクライアントの挙動の違いを簡単に確認できる。
    • OnPlayerJoinedや所有権の移動といった、ネットワークイベントのテストが容易になる。

ClientSimはVRChat Creator Companion (VCC) を通じて簡単にプロジェクトに導入できます。UdonSharpで同期ギミックを開発する上では、必須のツールと言っても過言ではありません。

3. デバッグ用UIの作成

ワールド内に、デバッグ専用のUIを設置するのも非常に有効な手法です。

  • 状態表示パネル: 同期変数([UdonSynced]な変数)の現在の値をTextコンポーネントで常に表示しておく。誰がオーナーなのか、スコアはいくつか、といった情報がリアルタイムで分かります。
  • デバッグボタン: 特定の処理を強制的に実行するボタンを用意する。
    • RequestSerialization()を強制的に呼び出すボタン。
    • プレイヤーを強制的にリスポーンさせるボタン。
    • ゲームの状態を初期化するボタン。

これらのUIは、最終的にワールドを公開する際には非表示または削除しますが、開発段階においては、問題の特定と修正を大幅に効率化してくれます。

// デバッグUI用のスクリプト例
public class DebugDisplay : UdonSharpBehaviour
{
    public SyncedGameManager gameManager;
    public Text ownerText;
    public Text scoreText;

    void Update()
    {
        // 毎フレーム、ゲームマネージャーの同期変数を表示
        ownerText.text = $"Owner: {Networking.GetOwner(gameManager.gameObject).displayName}";
        scoreText.text = $"Score: {gameManager.score}";
    }
}

パフォーマンス注意: 上記の例ではUpdate()で毎フレームUIを更新していますが、本番環境では負荷の原因になります。デバッグ目的でのみ使用し、公開時は削除するか、更新頻度を下げる(例: 0.5秒ごとに更新)ようにしてください。

4. テストの観点

ギミックが完成したら、様々な状況を想定してテストを行います。

  • 単体テスト: まずは自分一人だけで、ギミックが意図通りに動くかを確認する(ローカルテスト)。
  • 同期テスト: ClientSimや実際の複数人環境で、以下の点を確認する。
    • 途中参加: 他のプレイヤーが操作した後にワールドに参加しても、状態が正しく同期されるか (OnPlayerJoinedでの同期処理のテスト)。
    • 所有権の競合: 複数のプレイヤーが同時に同じオブジェクトを操作しようとした場合に、予期せぬ動作をしないか。
    • Master/Guestの挙動: Masterがいる場合といない場合、自分がMasterかGuestかで挙動に差が出ないか。
  • 負荷テスト: 多くのプレイヤーがいる状況や、ギミックを連続で激しく操作した場合でも、ワールドのフレームレート(FPS)が極端に低下しないかを確認する。
  • リグレッションテスト: 新しい機能を追加したり、バグを修正したりした後に、以前は正常に動いていた他の機能が壊れていないかを確認する。

まとめ

  • デバッグの基本はDebug.Log()で、変数の値や処理の経路を一つ一つ追跡することです。
  • 同期ギミックの開発には、Unityエディタ内でマルチプレイヤー環境を再現できるClientSimが必須ツールです。
  • 同期変数の状態などを表示するデバッグUIをワールド内に作ると、問題の把握が容易になります。
  • テストは、一人での動作確認だけでなく、途中参加所有権の競合といったマルチプレイヤー特有の状況を想定して行う必要があります。

デバッグとテストは、派手さはありませんが、ワールドの完成度を決定づける重要な工程です。焦らず、一つ一つの問題を丁寧に取り除くことが、最終的に多くの人に楽しんでもらえるワールドへの近道となります。