【Godot】move_and_slideとmove_towardの使い分け:ノックバック処理の実装

作成: 2025-06-20最終更新: 2025-12-06

CharacterBody2Dの移動処理でmove_and_slideとmove_towardを組み合わせる方法。ノックバック効果の実装例

概要

Godotでキャラクターを動かそうとすると、move_and_slide()move_toward()という、よく似た名前の2つの関数に出会います。どちらもオブジェクトを移動させるためのものですが、その背景にある仕組みと最適な用途は全く異なります。

この2つの違いを理解することは、物理法則に従ったスムーズな動きや、意図した通りのゲームロジック(例えばノックバック)を実装する上で非常に重要です。

Godotのノックバック処理

move_and_slide(): 物理演算ワールドの住人

move_and_slide()は、CharacterBody2DCharacterBody3Dといった物理キャラクター専用の、非常に高機能な移動メソッドです。

主な特徴:

  • 物理ベース: Godotの物理エンジンと密接に連携し、衝突を自動的に処理します
  • 滑る動き: 壁にぶつかった際に、オブジェクトはただ停止するのではなく、壁に沿って「滑る」ように動きます。これにより、壁際での操作性が格段に向上します
  • 坂道や動く床にも対応: 坂道を滑らかに上り下りしたり、動く床の上で正しく振る舞ったりするための複雑な処理が内部的に行われます
  • 戻り値: move_and_slide()を実行すると、キャラクターのvelocityプロパティが衝突に応じて自動的に更新されます

主な用途:

  • プレイヤーキャラクターや、壁や床と正しく衝突してほしいNPCの移動
  • 物理法則に基づいた自然な動きが求められるほとんどのケース
# _physics_process内で毎フレーム呼び出すのが基本
func _physics_process(delta):
    # velocity(速度)を計算・設定
    velocity.x = direction * SPEED
    velocity.y += gravity * delta

    # 物理エンジンに移動と衝突処理を任せる
    move_and_slide()

move_toward(): シンプルな数学的移動

move_toward()は、ベクトルや数値を「目標値に向かって、指定した分だけ変化させる」ための汎用的な数学関数です。物理エンジンとは一切関係ありません。

主な特徴:

  • 物理を無視: この関数は衝突を検知しません。オブジェクトを指定した座標に数学的に移動させるだけです
  • 一定速度: 現在地や目標値に関わらず、常に指定された一定のステップで値を変化させます
  • 汎用性: Vector2だけでなく、floatColorなど、様々なデータ型に対して使用できます(例: Colorを徐々に変化させる)

主な用途:

  • 物理的な衝突を考慮しないオブジェクトの移動(例: UI要素、背景オブジェクト)
  • 特定の状態(例: ノックバック中)で、物理演算を一時的に無視して強制的にキャラクターを動かしたい場合
  • 移動以外の値を一定速度で変化させたい場合(例: HPバーが滑らかに減少する演出)

実践例:ノックバック処理の実装

この2つの関数の使い分けが光るのが、「ノックバック」の実装です。敵からダメージを受けたプレイヤーが、少し後ろに吹き飛ぶ、あのアクションです。

通常の移動はmove_and_slide()で行い、ノックバック中だけはmove_toward()(または直接velocityを操作する方法)に切り替えることで、意図した通りの動きを実現できます。

var is_knockback = false
var knockback_vector = Vector2.ZERO

func _physics_process(delta):
    if is_knockback:
        # ノックバック中はvelocityを直接操作し、move_and_slideで衝突だけを処理
        velocity = knockback_vector
        move_and_slide()
        # 徐々に減速させる
        knockback_vector = knockback_vector.move_toward(Vector2.ZERO, 200 * delta)
        if knockback_vector == Vector2.ZERO:
            is_knockback = false
    else:
        # 通常の移動処理
        # ... (Inputに基づいたvelocityの計算)
        move_and_slide()

# ダメージを受けた時に外部から呼び出す関数
func apply_knockback(direction):
    is_knockback = true
    knockback_vector = direction * 400 # 吹き飛ぶ方向と強さ

この例では、is_knockbackというフラグで状態を管理しています。ノックバック中はプレイヤーの入力(通常の移動処理)を無視し、knockback_vectormove_towardで徐々にゼロに近づけることで、自然な減速を表現しています。

まとめ

move_and_slide()move_toward()は、似ているようで全く異なる役割を持つ関数です。

  • move_and_slide(): 物理キャラクターの通常移動 の主役。衝突処理はお任せ
  • move_toward(): 物理を無視した数学的な移動 や値の変化。UIや特殊な動きの演出に

この違いを理解し、適切に使い分けることで、あなたのゲームのキャラクターはより生き生きと、そして意図通りに動くようになるでしょう。