概要
Godotでゲーム開発をしていると、「プレイヤーは壁を通り抜けられないようにしたい」「敵は敵同士で衝突させたくない」「コインはプレイヤーだけが取得できるようにしたい」といった、複雑な衝突のルールを決めたくなります。これらをif文だけで管理しようとすると、コードはあっという間に複雑怪奇になってしまいます。
この問題をエレガントに解決するのが、Godotの物理エンジンに組み込まれているCollision Layers（衝突レイヤー） とCollision Masks（衝突マスク） です。
この記事では、多くの初心者がつまずきがちなこの2つの概念を、図解と共に分かりやすく解説し、あなたのゲームの衝突判定を整理整頓します。
LayersとMasks：役割分担の概念
CollisionObject（Area2D, CharacterBody2D, RigidBody2D など）のインスペクタを見ると、CollisionセクションにLayerとMaskという項目があります。この2つは、それぞれ明確な役割を持っています。
- Layer（レイヤー）: 「私はここにいます」 という宣言。オブジェクトがどの物理レイヤーに存在するかを示します。
- Mask（マスク）: 「私はこれと衝突したい」 という宣言。オブジェクトがどのレイヤーに存在するオブジェクトを検出対象とするかを示します。
覚え方: レイヤーは「自分の名札」、マスクは「探している相手の名札」と考えると分かりやすいです。
衝突が発生するためには、お互いのLayerとMaskが噛み合う 必要があります。つまり、オブジェクトAがオブジェクトBと衝突するためには、以下の両方の条件を満たす必要があります。
- オブジェクトAのMask が、オブジェクトBのLayer をチェックしている。
- オブジェクトBのMask が、オブジェクトAのLayer をチェックしている。
設定方法と名前付け
LayerとMaskは、それぞれ32個のON/OFF可能なチェックボックスとして表現されます。しかし、ただ「1番」「2番」と覚えておくのは大変です。
そこで、プロジェクト設定で各レイヤーに名前を付ける ことが非常に重要です。
- 「プロジェクト」→「プロジェクト設定」を開きます。
- 左のツリーから「レイヤー名」→「2D物理」または「3D物理」を選択します。
- 各レイヤーに「player」「enemy」「world」「item」といった分かりやすい名前を付けます。
こうすることで、インスペクタのチェックボックスに名前が表示され、設定ミスを劇的に減らすことができます。
実践例：具体的な設定
よくあるゲームの登場オブジェクトを例に、具体的な設定を見てみましょう。
| オブジェクト | Layer (私はここにいる) | Mask (これと衝突したい) |
|---|---|---|
| Player | player | world, enemy, item |
| Enemy | enemy | world, player |
| World (壁/床) | world | player, enemy |
| Item (コイン) | item | player |
この設定により、以下のような挙動が実現されます。
- Player: 壁や敵、アイテムと衝突します。
- Enemy: 壁やプレイヤーと衝突しますが、敵同士やアイテムとは衝突（すり抜け）しません。
- World: プレイヤーや敵とは衝突しますが、アイテムとは衝突しません（アイテムが壁に埋まらないようにするため）。
- Item: プレイヤーとのみ衝突（取得判定）します。壁や敵はすり抜けます。
Area2Dを使えば、衝突はせず「侵入したこと」だけを検出することも可能です。例えば、敵の攻撃範囲をArea2Dで作り、Maskでplayerレイヤーのみを監視する、といった使い方ができます。
まとめ
Collision LayersとMasksは、一見すると複雑に思えるかもしれませんが、その役割分担（「私はここ」と「あなたを探している」）を一度理解してしまえば、非常に強力なツールとなります。
この機能を使いこなすことで、move_and_slide()内の衝突処理コードをシンプルに保ち、オブジェクト間のインタラクションを宣言的に、かつ直感的に管理できるようになります。ゲームの規模が大きくなるほど、その恩恵は計り知れません。
まずはプロジェクト設定でレイヤーに名前を付けることから始めて、衝突判定の整理整頓に挑戦してみてください。