【Unreal Engine】Blueprintのパフォーマンス最適化とC++移行の判断基準

作成: 2025-12-12

BlueprintがC++より遅い理由と、UE5でNativizeが廃止された後の最適化手法について。どのような場合にC++への移行を検討すべきかの判断基準も整理。

概要

Unreal Engine (UE) の強力な機能であるBlueprintは、プログラミングの知識がなくてもゲームロジックを視覚的に構築できるため、初心者からプロまで幅広く利用されています。しかし、プロジェクトが大規模になるにつれて、「Blueprintが原因でゲームが重くなった」というパフォーマンスの壁にぶつかることがあります。

本記事では、Blueprintのパフォーマンスを劇的に改善する 「Nativize(ネイティブ化)」 の仕組みと、それがUE5でどのように変化したかを解説します。さらに、Nativizeに頼らずともBlueprintの処理速度を向上させるための実践的なベストプラクティス を、具体的なコード例を交えて紹介します。


Blueprintのパフォーマンス課題

BlueprintがC++より遅い理由

Blueprintは、Bytecode(バイトコード)にコンパイルされ、Blueprint VM(仮想マシン)上で実行 されます。純粋なインタープリタ言語とは異なりますが、ノードが実行されるたびにVMがバイトコードを解釈し、対応するC++の関数を呼び出すというオーバーヘッド が発生します。

💡 Blueprintは「思ったほど遅くない」場合も

Epic Gamesの公式ドキュメント「ベストプラクティスの通説を打ち破る」では、多くの一般的なゲームロジックにおいてBlueprintとC++のパフォーマンス差は体感できるレベルではない と説明されています。パフォーマンス問題が発生した場合は、闇雲にC++化するのではなく、プロファイリングで実際のボトルネックを特定 してから対処することが重要です。

特に、複雑な計算や、毎フレーム実行される処理(Tickイベントなど)をBlueprintで大量に行うと、このオーバーヘッドが積み重なり、ゲーム全体のフレームレート低下につながります。

Nativize(ネイティブ化)とは

Nativize とは、Unreal Engine 4 (UE4) のパッケージング設定にあった機能で、プロジェクト内のBlueprintアセットを自動的にC++コードに変換 する仕組みです。

これにより、Blueprintの実行時に発生していた解釈のオーバーヘッドがなくなり、ネイティブなC++コードとして実行されるため、特に計算負荷の高いBlueprintのパフォーマンスが大幅に向上しました。

特徴Blueprint (通常)NativizeされたBlueprint (UE4)C++
実行環境Blueprint VM (バイトコード実行)ネイティブC++コードネイティブC++コード
パフォーマンス低い (オーバーヘッドあり)高い (C++に近い)最も高い
デバッグ容易困難になる場合がある容易 (IDEを使用)
利用バージョン全バージョンUE4 (UE5では廃止)全バージョン

💡 Nativizeの注意点(UE4)

UE4時代のNativizeは、複雑なBlueprintではビルドエラーを起こしやすく、プロジェクトによっては使用しない方が安定することがありました。特にCircular Reference(循環参照)やInterface関連でエラーが発生しやすかったため、Nativizeは万能ではないことを理解しておく必要があります。

UE5でのNativizeの廃止

Unreal Engine 5 (UE5) では、Nativize機能は完全に廃止されました

⚠️ UE5ユーザーへの重要な注意

UE5ではNativize機能は使用できません。UE5でBlueprintのパフォーマンス最適化を行う場合、Nativizeに頼るのではなく、本記事で解説するベストプラクティス(C++への部分的移行、インターフェースの活用、Tickの最適化など)を適用してください。UE5ではShipping Build時のBlueprint自動最適化が改善されており、適切な設計を行えばNativizeなしでも十分なパフォーマンスを得られます。

これは、UE5のコンパイルパイプラインの改善や、BlueprintとC++の連携強化により、Nativizeがもたらすメリットが相対的に小さくなったためと考えられます。

しかし、UE5.x系では、Blueprintが生成するヘッダー情報を確認できる機能(BP Header View )が追加されています。これはBlueprintのデバッグや、C++との連携時の型情報確認に役立つ機能であり、BlueprintからC++へのコード移行を直接支援するものではありませんが、Blueprintの内部構造を理解する助けになります。


Blueprint最適化のテクニック

UE5を使用している場合でも、UE4でNativizeが使えない場合でも、Blueprintのパフォーマンスを向上させるための基本的なベストプラクティスは変わりません。

C++とBlueprintの使い分け

パフォーマンス最適化の基本は、処理の重い部分をC++に移行する ことです [4]。

処理内容推奨される実装言語理由
頻繁な計算 (ループ、複雑な数学)C++オーバーヘッドがなく、高速に実行される。
毎フレームの処理 (Tick)C++実行頻度が高いため、Blueprintのオーバーヘッドを避ける。
ゲームロジック (イベント処理、UI連携)Blueprint迅速なイテレーション、デザイナーとの連携が容易。
データ構造の定義C++ (UStruct)C++の型システムを利用でき、Blueprintからのアクセスも容易。

【コード例:重い処理をC++に委譲する】

Blueprintで複雑な処理を行う代わりに、その処理をC++で関数として実装し、Blueprintから呼び出すようにします。

C++側 (AMyActor.h)

// UFUNCTION(BlueprintCallable) を付けてBlueprintから呼び出し可能にする
UFUNCTION(BlueprintCallable, Category = "Performance")
void CalculateComplexLogic(int32 InputValue, int32& OutputValue);

Blueprint側

Blueprintでは、複雑なノードの連鎖を避け、代わりにC++で実装したノードを呼び出すだけになります。

graph TD
    A[Event Tick] --> B(Calculate Complex Logic (C++))
    B --> C[Set Output Variable]

インターフェースによるキャスト削減

Blueprintで頻繁に行われるキャスト(Cast To...) は、実行時に型チェックを行うため、パフォーマンスに負荷がかかります。

特にEvent Tickなどで毎フレームキャストを行うのは避けるべきです。代わりにBlueprintインターフェース を使用することで、型チェックのオーバーヘッドを減らし、より疎結合な設計を実現できます。

【ベストプラクティス】

  1. Blueprint Interface を作成し、必要な関数を定義します。
  2. 通信したいActorのBlueprintにそのインターフェースを実装します。
  3. 通信先のActorに対してメッセージ(Interface Call) を送信します。キャストは不要です。

コンポーネントによる機能共有

共通の動作やデータを持つBlueprintが複数ある場合、それらを継承で処理するのではなく、Actor Component として切り出すのがベストプラクティスです。

  • メリット: 動作の再利用性が高まり、個々のActor Blueprintがシンプルになります。
  • パフォーマンス: コンポーネントは必要なActorにのみ追加されるため、無駄な処理の実行を防げます。

よくある間違いと対策

分野よくある間違い (Bad Practice)ベストプラクティス (Good Practice)
TickイベントEvent Tickで複雑な計算や頻繁な処理を行う。Set Timer by EventDelayノードで処理を遅延・間引きする。処理が重い場合はC++に移行する。
ループ処理大量の要素を持つ配列に対してBlueprintでFor LoopFor Each Loopを使う。C++で実装した関数内でループ処理を行う。
変数アクセス頻繁にGet All Actors Of ClassノードでActorを検索する。Begin Playなどで一度だけ参照を取得し、変数にキャッシュしておく。
UI (UMG)Event TickでUIのバインディング(テキスト更新など)を行う。Event DispatcherDelegateを使用して、データが変更されたときのみUIを更新する。

最適化の方針

Blueprintは開発速度を向上させる強力なツールですが、パフォーマンスのボトルネックにもなり得ます。

  • UE4ユーザー: パッケージング時にNativize を試すことで、手軽にパフォーマンスを向上させることができます。ただし、エラーが発生した場合は、Blueprintの構造を見直すか、C++への移行を検討してください。
  • UE5ユーザー: Nativizeは廃止されましたが、C++との適切な使い分けインターフェースの活用コンポーネントによる設計 といった基本的なベストプラクティスを徹底することで、十分なパフォーマンスを得ることが可能です。

💡 パフォーマンス問題の特定には

Blueprintのパフォーマンス問題を特定するには、プロファイリングツール の活用が不可欠です。

  • stat game:ゲームスレッドの処理時間を確認
  • stat scripttime:Blueprintスクリプトの実行時間を確認

-Unreal Insights:詳細なプロファイリングデータを収集・分析

闇雲に最適化するのではなく、まずプロファイリングで実際のボトルネックを特定しましょう。

Blueprintの最適化は、単に速くするだけでなく、プロジェクトのメンテナンス性を高めることにもつながります。これらのテクニックを活用し、快適なUnreal Engine開発を進めてください。