アニメーションリターゲティングの概要
Unreal Engine (UE) を使ったゲーム開発において、異なるキャラクターモデル間でアニメーションを使い回す「アニメーションリターゲティング」は必須のテクニックです。しかし、これまでのUE5のワークフローは、特に初心者にとって大きな壁となっていました。
リターゲットを行うためには、 リターゲット元 と リターゲット先 のスケルトンそれぞれに対して、手動でIK Rigアセットを作成し、さらに両者を関連付けるIK Retargeterアセットを作成するという、煩雑な3ステップが必要でした。この手間が、アセットストアで購入した高品質なアニメーションをプロジェクトに導入する際の大きな障壁となっていたのです。
しかし、Unreal Engine 5.4では、このワークフローが劇的に進化しました。本記事では、UE5.4で導入された新しいアニメーションリターゲティング機能の全貌を解説し、煩雑な設定から解放される「ワンクリック」に近い新時代のワークフローを、初心者から中級者向けに徹底ガイドします。
UE5.4での変更点
UE5.4で進化したアニメーションリターゲティング(旧IK Retargeter)の最も重要な変更点は、 IK RigアセットとIK Retargeterアセットの事前作成が不要になった ことです。
これまでは、リターゲットのたびに以下の3つのアセットを手動で作成・設定する必要がありました。
- ソースIK Rig:リターゲット元スケルトンのIK設定
- ターゲットIK Rig:リターゲット先スケルトンのIK設定
- IK Retargeter:上記2つのIK Rig間のマッピングと設定
UE5.4では、リターゲット処理を実行する際に、これらのアセットが 内部的に自動生成され、自動でボーンマッピングが行われる ようになりました。これにより、開発者は「どのスケルトンから、どのスケルトンへ」という情報だけを指定すれば、すぐにリターゲットを実行できるようになりました。
| 機能 | UE5.3以前 (旧ワークフロー) | UE5.4以降 (新ワークフロー) |
|---|---|---|
| IK Rigアセット | 手動で作成・設定が必要 | 自動生成されるため不要 |
| IK Retargeterアセット | 手動で作成・設定が必要 | 自動生成されるため不要 |
| ボーンマッピング | 手動での確認・調整が必須 | ほぼ自動で完了 |
| 実行手順 | 3つのアセット作成後、IK Retargeterから実行 | アニメーションアセットから直接実行 |
リターゲティングの実行手順
UE5.4でのリターゲティングは、驚くほどシンプルになりました。ここでは、最も一般的な「ソースアニメーションをターゲットスケルトンに適用する」手順を解説します。
ステップ1:リターゲットの開始
まず、リターゲットしたい ソースのアニメーションアセット (例:ThirdPersonRun)をコンテンツブラウザで右クリックします。
メニューから [アニメーションリターゲット] を選択します。
ステップ2:ターゲットスケルタルメッシュの選択
表示されたダイアログボックスで、リターゲット先のスケルトンを持つ ターゲットスケルタルメッシュ (例:SK_MyCustomCharacter)を選択します。
💡ポイント: 以前のバージョンではIK Retargeterアセットを選択していましたが、UE5.4では直接ターゲットのスケルタルメッシュを指定します。この時点で、システムが内部的に必要なIK RigとIK Retargeterを自動でセットアップします。
ステップ3:アニメーションの選択とエクスポート
ターゲットを選択すると、リターゲット対象のアニメーションがリスト表示されます。通常は、右クリックしたアニメーションが選択された状態になっています。
- リターゲットしたいアニメーションが選択されていることを確認します。
- 画面下部の [エクスポート] ボタンをクリックします。
ステップ4:保存先の設定と完了
最後に、リターゲットされた新しいアニメーションアセットの保存先フォルダとファイル名のプレフィックスを設定します。
- 保存先フォルダ:任意のフォルダを指定します。
- プレフィックス:自動で付与される接頭辞です(例:
RTG_)。
[リターゲット] をクリックすると、指定したフォルダにリターゲット済みの新しいアニメーションアセットが生成されます。
リターゲット後の微調整
自動リターゲティングは非常に強力ですが、異なる体型やボーン構造を持つキャラクター間では、手足の長さの違いなどからポーズにわずかなズレが生じることがあります。
よくある間違いとベストプラクティス
| 課題 | よくある間違い | ベストプラクティス |
|---|---|---|
| ポーズのズレ | リターゲット結果をそのまま使用する | 自動生成されたIK Retargeterを編集する |
| Root Motion | Root Motionが正しく適用されない | IK RetargeterでRootボーンの変換タイプを確認し、ソース/ターゲットのルートボーン名が一致しているか、Animation SequenceのRoot Motion設定も確認する |
| 体型差 | スケルトンの比率を無視してリターゲットする | リターゲット前にソースとターゲットのリターゲットポーズを可能な限り一致させる |
ベストプラクティス:IK Retargeterの編集
UE5.4の新機能で自動生成されたIK Retargeterは、内部的に自動生成されるアセット であり、配置先やUIの表示はエディタのバージョンやプロジェクト設定によって異なる場合があります。以下の手順でアクセスし、従来のIK Retargeterエディタで詳細な調整が可能です。
- リターゲット後のアニメーションアセットをダブルクリックして開きます。
- アセットエディタのツールバーにある [IK Retargeterを開く] ボタンをクリックします。
これにより、自動生成されたIK Retargeterアセットが開き、ボーンの変換設定(トランスレーション、ローテーション)や、リターゲットポーズの微調整を行うことができます。特に、手足のIKゴール設定や、特定のボーンのトランスレーションを無効化する設定は、ここで調整します。
Blueprintによる実行時調整の例
リターゲット後のアニメーションブループリント内で、特定のボーンのオフセットを調整することで、実行時にキャラクターの接地感などを改善できます。
例えば、リターゲット後に足が地面にめり込む場合、Transform (Modify) Boneノードを使用して足首のボーンをわずかに調整することができます。
// アニメーションブループリントのAnim Graph内
// Transform (Modify) Bone ノードを使用
// - Target Bone: foot_l (左足のボーン名)
// - Translation Mode: Add to Existing
// - Translation Space: Component Space
// - Translation: Z軸に +2.0 (わずかに持ち上げる)
// 注:Two Bone IKは足のIK制御に有効ですが、
// リターゲット固有の問題解決には Transform (Modify) Bone の方が直接的です
このノードをアニメーショングラフに配置することで、リターゲットされたアニメーションのポーズを、キャラクターの体型に合わせて動的に微調整できます。
リターゲティングの活用ポイント
Unreal Engine 5.4のアニメーションリターゲティングの進化は、アニメーションワークフローを劇的に改善しました。
- 設定の簡略化:IK RigやIK Retargeterの手動作成が不要になり、リターゲットが「ワンクリック」に近い体験になりました。
- 時間の節約:煩雑な初期設定が不要になったことで、アニメーションの試行錯誤にかかる時間が大幅に短縮されます。
- 柔軟性の維持:自動生成されたIK Retargeterは、いつでも従来のIK Retargeterエディタで編集できるため、高度なカスタマイズ性も維持されています。
💡 自動リターゲットの限界
UE5.4の自動リターゲットは非常に強力ですが、ソースとターゲットのボーン階層の差が大きい場合(例:4本足のクリーチャーを人型にリターゲットするなど)は、自動マッピングが破綻することがあります。このような場合は、従来通りIK Rigを手動で作成し、カスタムのボーンチェーン設定を行う必要があります。
この新機能により、Unreal Engineでのアニメーション開発は、より直感的で効率的な次のステージへと進みました。ぜひ、UE5.4にアップデートして、この新しいワークフローを体験してみてください。