【Unreal Engine】Data Assetによるデータ駆動設計の実装方法

作成: 2025-12-12

Data Assetはロジックとデータを分離し、複数のクラスから同じデータを参照できる仕組み。UDataAssetの定義方法とData Tableとの使い分けの基準を紹介。

データ駆動設計の必要性

Unreal Engine (UE) でゲーム開発を進めていると、以下のような課題に直面することがあります。

  • デザイナーやプランナーがデータを調整しにくい: 敵のステータス、アイテムの性能、レベルデザインのパラメータなど、ゲームの「データ」がC++のコードやBlueprintの中に埋め込まれていませんか?データ変更のたびにプログラマーの作業が必要になり、イテレーション速度が低下します。
  • データの再利用性が低い: 似たようなアイテムや敵でも、少しパラメータが違うだけで新しいBlueprintクラスを作成していませんか?これはアセットの肥大化と管理の複雑化を招きます。
  • メモリ効率が悪い: 複数のアクターが同じデータ(例:武器の基本ステータス)を持っている場合、そのデータがメモリ上に重複してロードされてしまいます。

これらの課題を解決し、プログラマーと非プログラマーの分業を促進し、効率的で柔軟な開発体制 を実現するのが「データ駆動設計 (Data-Driven Design) 」です。データ駆動設計では、ゲームのロジック(振る舞い)とデータ(パラメータ)を明確に分離します。

そして、Unreal Engineにおいて、このデータ駆動設計の中核を担うのが「Data Asset (データアセット) 」です。


Data Assetとは

Data Asset は、特定のデータ構造(UDataAssetクラス)に基づいて、データのみを保持するために設計されたアセット です。

BlueprintやC++のクラスが「振る舞い(ロジック)」と「データ(プロパティ)」の両方を持つテンプレート であるのに対し、Data Assetは純粋に「データ 」を定義し、それをコンテンツブラウザ上で独立したアセットとして管理できるようにします。

特徴Data AssetBlueprint Class (Actorなど)
目的データ(パラメータ)の保持と共有振る舞い(ロジック)とデータの定義
インスタンス化不要(データ自体がアセット)必要(ワールドに配置、またはスポーン)
メモリ効率良い(データを複製せず参照で共有できる設計にしやすい)状況による(インスタンスごとにデータを持つ場合がある)
使用例敵のステータス、アイテム定義、設定値プレイヤーキャラクター、ドア、UIウィジェット

Data Assetの最大の利点は、複数のクラスやシステムから同じデータを参照できる 点と、デザイナーがコードに触れることなくデータを編集できる 点にあります。


Data Assetの作成と使い方

Data Assetを導入する手順は非常にシンプルです。

ステップ1: Data Assetの基底クラスを定義する (C++)

まず、保持したいデータの構造を定義するC++クラスを作成します。このクラスはUDataAssetを継承する必要があります。

GameItemDataAsset.h

#pragma once

#include "CoreMinimal.h"
#include "Engine/DataAsset.h"
#include "GameItemDataAsset.generated.h"

UCLASS(BlueprintType)
class MYPROJECT_API UGameItemDataAsset : public UDataAsset
{
    GENERATED_BODY()

public:
    // アイテムの基本情報
    UPROPERTY(EditAnywhere, BlueprintReadOnly, Category = "Item")
    FText ItemName;

    UPROPERTY(EditAnywhere, BlueprintReadOnly, Category = "Item")
    FText ItemDescription;

    UPROPERTY(EditAnywhere, BlueprintReadOnly, Category = "Item")
    UTexture2D* ItemIcon;

    // アイテムのステータス
    UPROPERTY(EditAnywhere, BlueprintReadOnly, Category = "Stats")
    int32 AttackPower;

    UPROPERTY(EditAnywhere, BlueprintReadOnly, Category = "Stats")
    int32 DefenseValue;

    UPROPERTY(EditAnywhere, BlueprintReadOnly, Category = "Stats")
    float Weight;
};
  • UCLASS(BlueprintType): Blueprintからこのクラスを参照できるようにします。
  • UPROPERTY(EditAnywhere, BlueprintReadOnly): コンテンツブラウザのData Assetインスタンスで編集可能にし、Blueprintから読み取り専用でアクセスできるようにします。

ステップ2: Data Assetインスタンスを作成する

  1. Unreal Editorのコンテンツブラウザ で右クリックします。

2.Miscellaneous (その他) >Data Asset (データ アセット) を選択します。 3. 表示されたリストから、先ほど作成したGameItemDataAssetを選択します。 4. 作成されたアセットに名前を付けます(例: DA_Sword_Basic, DA_Potion_Heal)。 5. アセットをダブルクリックして開き、詳細パネルで各プロパティ(ItemName, AttackPowerなど)をデザイナーが自由に設定できます。

ステップ3: Data AssetをBlueprintから参照する

Data Assetのデータをゲーム内で使用するには、Blueprintクラス(例: プレイヤー、敵、インベントリシステム)にData Assetへの参照を持たせます。

  1. BlueprintクラスにUGameItemDataAsset型の変数を作成します。
  2. この変数に、コンテンツブラウザで作成したData Assetインスタンス(例: DA_Sword_Basic)を割り当てます。
  3. Blueprintグラフ内で、この変数からData Assetのプロパティ(例: AttackPower)を取得し、ゲームロジックに使用します。

Blueprintの例 (アイテムの使用ロジック)

Data Assetの参照からデータを取得し、ロジックに利用するノードのイメージです。

graph TD
    A[Event Use Item] --> B{Get Item Data Asset Reference};
    B --> C[Get Attack Power];
    C --> D[Apply Damage to Target];
    D --> E[Print String: ItemName];

Data AssetとData Tableの使い分け

Unreal Engineには、Data Assetの他にData Table というデータ管理機能もあります。これらは用途が異なります。

機能Data AssetData Table
構造独自のUDataAssetクラス独自のFTableRowBase構造体
管理単位1アセット = 1データセット1アセット = 複数行のデータ(CSV/Excel形式)
柔軟性高い(複雑なデータ構造、アセット参照が可能)低い(シンプルな表形式に限定される)
編集者主にデザイナー/プランナー主にデザイナー/プランナー(外部ファイル編集も)
適した用途複雑なアイテム定義、設定ファイル、ユニークなデータ大量の均質なデータ(例: 敵のレベル別ステータス、翻訳テキスト)

ベストプラクティス:

  • ユニークで複雑なデータ (例: プレイヤーのスキルツリー設定、特定のボス敵の定義)にはData Asset を使用します。
  • 大量の均質なデータ (例: 100種類あるポーションの基本ステータス)にはData Table を使用し、外部ファイル(CSV/Excel)で管理することで、データの一括編集を容易にします。

Data Assetの応用例

Data Assetの真価は、ゲームシステム全体をデータ駆動にする際に発揮されます。

応用例: 状態異常システム

状態異常(毒、麻痺など)をData Assetで定義することで、新しい状態異常の追加やパラメータ調整が容易になります。

C++ Data Asset定義

// StatusEffectDataAsset.h
UCLASS(BlueprintType)
class UStatusEffectDataAsset : public UDataAsset
{
    GENERATED_BODY()

public:
    UPROPERTY(EditAnywhere, BlueprintReadOnly)
    FText EffectName;

    UPROPERTY(EditAnywhere, BlueprintReadOnly)
    float Duration; // 効果時間

    UPROPERTY(EditAnywhere, BlueprintReadOnly)
    float TickDamage; // 1秒あたりのダメージ

    // 状態異常のアイコン、パーティクルシステムなど、他のアセットへの参照も可能
    UPROPERTY(EditAnywhere, BlueprintReadOnly)
    UParticleSystem* ParticleEffect;
};

ロジック側 (Blueprint/C++)

状態異常を付与する関数は、具体的なダメージ値や効果時間を持つのではなく、Data Assetへの参照 を受け取るように設計します。

// 状態異常を付与する関数
void UCombatComponent::ApplyStatusEffect(UStatusEffectDataAsset* EffectData, AActor* Target)
{
    // Data AssetからDurationやTickDamageを取得し、ロジックを実行
    float ActualDuration = EffectData->Duration;
    float DamagePerTick = EffectData->TickDamage;

    // ... 実際の状態異常ロジック ...
}

これにより、プログラマーはApplyStatusEffectのロジックを一度実装するだけで済み、デザイナーは新しいData Asset(例: DA_Poison_Strong, DA_Paralysis_Weak)を作成するだけで、新しい状態異常をゲームに追加できるようになります。


よくある間違いとベストプラクティス

よくある間違い

1.Data Assetにロジックを記述してしまう: Data Assetはあくまで「データ」を保持するものです。ロジック(振る舞い)は、それを参照するActorやComponent、Subsystemなどのクラスに記述しましょう。 2.Data Tableの代わりにData Assetを使いすぎる: 大量の均質なデータを行ごとに管理したい場合は、Data Tableの方が適しています。Data Assetはアセット数が多くなりすぎると管理が煩雑になります。 3.Data Assetを直接インスタンス化しようとする: Data Assetはアセットとしてコンテンツブラウザに存在し、それを参照して使います。実行時にNewObjectなどで生成する用途には向きません。

ベストプラクティス

  • 命名規則を統一する: Data AssetにはDA_などのプレフィックスを付け(例: DA_Enemy_Goblin)、一目でデータアセットだとわかるようにしましょう。
  • Primary Data Assetを活用する: Data AssetをUPrimaryDataAssetから派生させると、アセットマネージャー(Asset Manager)による非同期ロードやアセットバンドル(Asset Bundles)によるパッチング対象の管理が容易になります。大規模プロジェクトでは必須のテクニックです。
  • Data Assetをシングルトン的に利用する: ゲーム全体の設定値(例: グラフィック設定のプリセット、ゲームプレイ定数)を保持するData Assetを作成し、Subsystemなどから参照することで、グローバルな設定値を一元管理できます。

Data Assetの活用ポイント

Unreal EngineにおけるData Asset は、データ駆動設計を実現するための強力なツールです。

要点説明
役割データ(パラメータ)とロジック(振る舞い)を分離し、データのみを保持するアセット。
メリットデザイナーによるデータ調整の容易化、データの再利用性向上、メモリ効率の改善。
使い分け複雑でユニークなデータにはData Asset、大量の均質なデータにはData Table。
設計思想ロジック側はData Assetの に依存し、具体的な はData Assetインスタンスに依存する。

Data Assetを適切に活用することで、Unreal Engineでの開発はより柔軟に、そして効率的になります。ぜひ、あなたのプロジェクトにデータ駆動設計を取り入れてみてください。