ゲーム開発において、キャラクターのステータス、アイテムのパラメータ、レベルデザインの数値など、管理すべきデータは膨大です。これらのデータをBlueprintやC++のコード内に直接書き込んでしまうと、次のような問題が発生します。
- 調整の非効率性: データを少し変更するたびに、コードの編集と再コンパイルが必要になる。
- 役割の混在: デザイナーやプランナーがデータを調整したいのに、プログラマーの助けが必要になる。
- データの見通しの悪さ: どこにどんなデータがあるのか、コードを読まないと把握しにくい。
このような問題を解決し、開発効率とデータの管理性を飛躍的に向上させるのが、Unreal EngineのData Table(データテーブル) です。本記事では、Data Tableの基本から、外部のCSVファイルを使った効率的なデータインポート、そしてBlueprintでの実践的な活用方法までを、初心者の方にも分かりやすく解説します。
Data Tableの基本構造
Data Tableは、スプレッドシートのような形式でゲームデータを一元管理するためのアセットです。しかし、ただの表ではなく、Unreal Engineの構造体(Struct) と密接に連携しています。
構造体(Struct)の役割
Data Tableを作成する前に、まずデータの「型」を定義する必要があります。これが構造体(Structure)の役割です。
例えば、アイテムのデータを管理したい場合、アイテム名(String)、攻撃力(Integer)、価格(Float)といった変数をまとめたFItemDataという構造体を定義します。Data Tableは、この構造体を「行のテンプレート」として使用します。
Data Tableの作成手順
- 構造体の作成:
- コンテンツブラウザで右クリック →
Blueprint→Structureを選択し、必要な変数を定義します。(例:ItemData_ST)
- コンテンツブラウザで右クリック →
💡 構造体とData Tableの関係
-Blueprintで作成した構造体:特別な継承設定は不要で、そのままData Tableの行構造体(Row Structure)として指定できます。これはUE4から変わらない仕様です。
-C++で定義した構造体:
FTableRowBaseを継承する必要があります。// C++でData Table用構造体を定義する例 USTRUCT(BlueprintType) struct FItemData : public FTableRowBase { GENERATED_BODY() UPROPERTY(EditAnywhere, BlueprintReadWrite) FString ItemName; UPROPERTY(EditAnywhere, BlueprintReadWrite) int32 AttackPower; };
- Data Tableアセットの作成:
- コンテンツブラウザで右クリック →
Miscellaneous→Data Tableを選択します。 - 作成時に、先ほど定義した構造体(例:
ItemData_ST)を行の構造体(Row Structure) として指定します。
- コンテンツブラウザで右クリック →
これで、Data Tableアセットが作成され、エディタ内で直接データを入力できるようになります。
CSVファイルのインポート
大量のデータを手動で入力するのは非効率的です。Data Tableの最大の強みの一つは、外部のCSV(Comma Separated Values)ファイルをインポートできる点にあります。
CSVファイルの準備
Data TableにインポートするためのCSVファイルには、厳格なフォーマットが必要です。
| RowName | ItemName | AttackPower | Price |
|---|---|---|---|
| Sword_01 | 鋼の剣 | 15 | 100 |
| Shield_01 | 木製の盾 | 5 | 50 |
重要なルール:
- 1行目(ヘッダー行): Data Tableの行の構造体(
ItemData_ST)で定義した変数名と完全に一致 させる必要があります(大文字・小文字も区別されます)。 - 1列目(RowName): これは特別な列で、各行を一意に識別するための名前(キー)になります。重複は許されません。
- 区切り文字: 基本的にカンマ(
,)を使用します。
このCSVファイルを、メモ帳やExcelなどの表計算ソフトで作成し、UTF-8形式 で保存します。
💡 日本語を含むCSVの注意点
日本語などのマルチバイト文字を含むCSVファイルは、BOM付きUTF-8(UTF-8 with BOM) で保存することを推奨します。BOMなしの場合、文字化けが発生す ることがあります。また、CSVファイルをコンテンツブラウザに直接ドラッグ&ドロップすることでもインポートできます(Data Tableの作成とインポートを同時に行えます)。
Unreal Engineへのインポート
- 作成したData Tableアセット(例:
DT_ItemData)を右クリックします。 Importを選択し、準備したCSVファイルを選択します。- インポートが成功すると、Data Tableエディタ内にCSVの内容が反映されます。
💡 ベストプラクティス: CSVファイルをプロジェクトの
Contentフォルダ内の専用フォルダ(例:Content/Data/CSV)に配置しておくと、バージョン管理が容易になります。
Blueprintでのデータ取得
Data Tableにデータが格納されたら、次はBlueprintでそのデータを活用します。
データの取得ノード
Data Tableから特定の行のデータを取得するために、主に以下のノードを使用します。
| ノード名 | 用途 |
|---|---|
Get Data Table Row | Row Name(キー)を指定して、対応する構造体のデータを取得する。最も一般的。 |
Get Data Table Row by Index | 行のインデックス(0から始まる番号)を指定してデータを取得する。 |
Get Data Table Row Names | Data Table 内のすべてのRow Name(キー)のリストを取得する。 |
Blueprint実装例
ここでは、アイテムのRow Name(例: Sword_01)を指定して、そのアイテムの攻撃力を取得する処理を実装します。
graph TD
A[Event BeginPlay] --> B{Get Data Table Row};
B -- Data Table --> C[DT_ItemData (Data Table Asset)];
B -- Row Name --> D["Sword_01 (Name)"];
B -- Found? (Boolean) --> E{Branch};
B -- Out Row (ItemData_ST) --> F[Break ItemData_ST];
E -- True --> G[Get AttackPower];
G --> H[Print String: AttackPower];
E -- False --> I[Print String: Error - Row Not Found];
手順:
Get Data Table Rowノードを配置します。Data Tableピンに、作成したData Tableアセット(DT_ItemData)を指定します。Row Nameピンに、取得したいデータのキー(例:Sword_01)を入力します。Out Rowピンから、対応する構造体(ItemData_ST)のデータが出力されます。Break ItemData_STノードを接続し、構造体の中身(ItemName,AttackPower,Priceなど)を取り出します。Found Rowピン(Boolean)を使って、データが見つかったかどうかをチェックし、エラー処理を行います。
この仕組みにより、コードを変更することなく、CSVファイルを編集するだけでゲームのバランス調整が可能になります。
よくある間違いとベストプラクティス
Data Tableを効果的に使うために、以下の点に注意しましょう。
❌ よくある間違い
- 構造体とCSVの不一致: CSVのヘッダー名が、構造体の変数名と一文字でも異なっていると、インポート時にエラーが発生するか、データが正しく読み込まれません。
- Row Nameの重複: Row Nameは一意のキーでなければなりません。重複していると、意図しないデータが読み込まれる原因になります。
- データ型の不一致: CSVのセルに入力された値が、構造体で定義された型(例:
Integerの変数に文字列)と異なると、インポート時に警告やエラーが出ます。
✅ ベストプラクティス
- 構造体の命名規則: 構造体名には
_STや_Dataといったサフィックスを付け(例:ItemData_ST)、Data Tableの行の構造体であることを明確にします。 - データ駆動の徹底: 調整が必要な数値は、可能な限りData Tableに集約し、コードから直接マジックナンバーを排除します。
- コメントと説明: 構造体の各変数には、必ずコメント(説明)を記述し、他の開発者がその変数の意味を理解できるようにします。
- 外部ツールとの連携: ExcelやGoogle Sheetsなどの外部ツールでデータを管理し、エクスポート機能を使ってCSVを生成するワークフローを確立すると、データ管理がさらに効率化されます。
Data Table活用のポイント
Unreal EngineのData Tableは、データ駆動型の開発を実現するための強力なツールです。
| 要素 | ポイント |
|---|---|
| 基本 | 構造体(Struct)をテンプレートとして使用する。 |
| インポート | CSVファイルの1行目は構造体の変数名と完全に一致させる。1列目は一意のRow Nameとする。 |
| 活用 | Get Data Table RowノードでRow Nameを指定し、必要なデータを取得する。 |
| メリット | デザイナーやプランナーによるデータ調整が容易になり、開発のイテレーション速度が向上する。 |
Data Tableを使いこなすことで、より柔軟でメンテナンス性の高いゲーム開発が可能になります。まずは簡単なアイテムデータからData Tableへの移行を試み、その効率性を実感してください。