【Unreal Engine】FunctionとMacroの違い:動作原理と使い分けの基準

作成: 2025-12-12

FunctionとMacroは似ているようで動作原理が異なる。Delayノードが使えるか、実行ピンを分岐できるかなど、選択に影響する違いを整理。

FunctionとMacroの概要

Unreal Engine (UE) でゲームロジックを構築する際、Blueprintは非常に強力なツールです。しかし、Blueprintを効率的かつメンテナンスしやすい形で記述するためには、処理をひとまとまりにするためのFunction(関数)Macro(マクロ) の適切な使い分けが不可欠です。

初心者の方にとって、「どちらも処理をまとめるもの」という認識で止まってしまい、結果として以下のような問題に直面することがよくあります。

  1. デバッグの困難さ: 意図しない挙動が発生した際、FunctionとMacroのどちらを使っているかによって、デバッグの方法や難易度が大きく変わります。
  2. パフォーマンスの低下: 特にMacroを多用しすぎると、Blueprintのコンパイル時間や実行時のオーバーヘッドが増加する可能性があります。
  3. 可読性の低下: 処理の意図がFunctionとMacroのどちらで実現されているかによって、他の開発者(あるいは未来の自分)がコードを理解する難易度が変わります。

この記事では、FunctionsとMacrosの基本的な違いから、それぞれのメリット・デメリット、そしてプロの現場で通用する最適な使い分けのベストプラクティスまでを、具体的なBlueprintの例を交えて徹底的に解説します。


Functionの基本と特徴

Functionは、プログラミングにおける「関数」の概念に最も近いものです。特定の入力を受け取り、特定の処理を実行し、結果を出力するために使用されます。

Functionの主な特徴

特徴詳細
実行フロー単一のエントリーノードExecute)と単一のイグジットノードReturn Node)のみを持つ。
遅延実行ノードDelayTimelineなどの遅延実行ノードは使用できない
ローカル変数Function内で直接ローカル変数を定義・使用できる。
再帰呼び出し自分自身を呼び出す再帰呼び出しが可能
Pure Function実行ピンを持たず、入力ピンと出力ピンだけで完結する純粋な計算 (Pure Function)を作成できる。
デバッグ実行フローが明確なため、デバッグが非常に容易。

FunctionのBlueprint例:純粋な計算

Functionは、主に状態を変更しない純粋な計算 や、実行フローを制御しないシンプルな処理 に最適です。

例えば、2つのベクトルの距離を計算し、それが特定の閾値以下かどうかをチェックするFunctionを作成する場合を考えます。

// Function名: IsWithinRange
// 入力: TargetLocation (Vector), Range (Float)
// 出力: IsClose (Boolean)

// [Execute] -> [Vector Length] (TargetLocation - Self Location) -> [<=] (Range) -> [Return Node]
// ※ Pure Functionとして作成すれば、実行ピンは不要

Functionは、処理が開始から終了まで一気に実行されるため、実行フローが非常に分かりやすく、デバッグ時にステップ実行しやすいという大きなメリットがあります。


Macroの基本と特徴

Macroは、Functionとは異なり、Blueprintノードの「テンプレート」または「コピー&ペーストのショートカット」のようなものです。Macroが呼び出されると、その中身のノードが呼び出し元のグラフに展開されます。

Macroの主な特徴

特徴詳細
実行フロー複数のエントリーノードInput)と複数のイグジットノードOutput)を持つことができる。
遅延実行ノードDelayTimelineなどの遅延実行ノードを使用できる
ローカル変数Macro内ではLocal Variablesを直接定義できない。値の受け渡しは入力パラメータで行う。
再帰呼び出しノードのコピーとして展開されるため、再帰呼び出しはできない
展開呼び出し元でノードが展開されるため、Blueprintのグラフが大きくなる傾向がある。
デバッグ呼び出し元に展開されたノードをデバッグすることになる。Functionに比べると、デバッグウィンドウでの追跡がやや複雑になる場合がある。

MacroのBlueprint例:実行ピンの分岐

Macroの最大の強みは、実行ピンを分岐させられる 点です。これはFunctionでは不可能です。

例えば、「特定の条件が真の場合と偽の場合で、それぞれ異なる実行フローに進ませたい」という処理をひとまとめにしたい場合にMacroが役立ちます。

// Macro名: BranchOnCondition
// 入力: Condition (Boolean), InExec (Exec Pin)
// 出力: OnTrue (Exec Pin), OnFalse (Exec Pin)

// [Input] (InExec) -> [Branch] (Condition)
// [Branch] True Pin -> [Output] (OnTrue)
// [Branch] False Pin -> [Output] (OnFalse)

このMacroを使用することで、呼び出し元のグラフでBranchノードを毎回配置する手間が省け、かつ処理の意図を明確にすることができます。


FunctionとMacroの比較

両者の違いを明確にするために、主要な項目で比較します。

項目Function(関数)Macro(マクロ)
実行ピン単一の入力と単一の出力のみ複数の入力と複数の出力が可能
遅延実行ノード使用不可 (Delay, Timelineなど)使用可能
再帰呼び出し可能不可能(無限ループになるため)
ローカル変数Function内で定義可能定義不可 (入力パラメータで代用)
展開方法実行時に呼び出される(サブルーチン)コンパイル時にノードが展開される(インライン展開)
デバッグ容易(実行フローが明確)やや複雑(展開されたノードを追う必要がある)
用途純粋な計算、シンプルな処理、デバッグ重視実行ピンの分岐、遅延実行を含む処理、複雑なノードのグループ化

FunctionとMacroの使い分け

FunctionsとMacrosのどちらを使うべきか迷った場合、以下の原則に従うことで、メンテナンス性の高いBlueprintを作成できます。

Functionを使うべきケース(基本原則)

Functionをデフォルトの選択肢 とします。

  • 純粋な計算や状態チェック: 実行フローを伴わない、値の計算やBooleanのチェックなど。
  • シンプルなロジックの再利用: 1つの処理が完結し、実行ピンの分岐が不要な場合。
  • デバッグのしやすさを優先する場合: Functionはデバッグが容易なため、複雑なロジックはFunctionに分割することを推奨します。
  • 再帰呼び出しが必要な場合: Functionのみが再帰呼び出しをサポートします。

Macroを使うべきケース(例外的な選択肢)

Macroは、Functionでは実現できない特定の機能が必要な場合にのみ使用します。

  • 実行ピンの分岐が必要な場合: Branchノードのように、条件によって異なる実行フローを外部に提供したい場合。
  • 遅延実行ノード(Delayなど)を使用したい場合: Function内では使用できないため、遅延処理をまとめる場合はMacroを使います。

💡 MacroとLocal Variablesについての補足

MacroにはFunctionのような「Local Variables」パネルがなく、Macro内で直接ローカル変数を定義することはできません。Macro内で一時的な値を保持したい場合は、入力パラメータとして値を受け取る か、Sequenceノードやワイヤーの接続 で値を伝搬させてください。複雑な中間計算が必要な場合は、Functionの使用を検討してください。

よくある間違いと注意点

  1. Functionで遅延実行ノードを使おうとする: Function内でDelayノードなどを配置しようとすると、コンパイルエラーになります。遅延実行が必要な場合は、必ずMacro を使うか、Event Graph で処理を記述してください。
  2. Macroを多用しすぎる: Macroはノードのコピーとして展開されるため、多用しすぎるとBlueprintのグラフ全体が巨大化し、コンパイル時間が増加したり、可読性が著しく低下したりします。Functionで実現できることは、極力Functionを使用しましょう。
  3. Macroで再帰呼び出しを試みる: Macroは展開されるため、再帰呼び出しを試みると無限にノードが展開され、コンパイルエラーやクラッシュの原因となります。

💡 Collapse Nodes(ノードを折り畳む)との違い

Blueprintには、複数のノードを選択して右クリック → 「Collapse Nodes」で折り畳む機能があります。これはMacroに似ていますが、Collapsed Nodes は単にグラフの見た目を整理するためのもので、再利用性はありません。一方、Macro はMy Blueprintパネルに登録され、同じBlueprint内の複数の場所から呼び出せます。混同しないように注意しましょう。


FunctionとMacroの選択指針

FunctionsとMacrosは、どちらもBlueprintの可読性と再利用性を高めるための重要なツールですが、その動作原理と機能には決定的な違いがあります。

ツール動作原理最大の強み
Functionサブルーチンとして呼び出される実行フローの明確さ、デバッグの容易さ
Macroノードのコピーとして展開される実行ピンの分岐、遅延実行ノードの使用

基本はFunction を使い、実行ピンの分岐や遅延実行が必要な場合にのみMacro を使う、という使い分けの原則をマスターすれば、あなたのUnreal Engineプロジェクトはより堅牢で、メンテナンスしやすいものになるでしょう。

この知識を活かして、効率的なBlueprint開発を進めてください。