レベルストリーミングの必要性
広大なオープンワールドや、細部まで作り込まれた巨大なステージは、プレイヤーに最高の没入感を提供します。しかし、その裏側で開発者を悩ませるのが、パフォーマンスの維持 です。
「マップを移動するたびにゲームがカクつく」「ロード時間が長すぎてプレイヤーが離脱してしまう」—これは、大規模なゲーム開発における永遠の課題です。なぜなら、従来の単一レベル構成では、Unreal Engine(UE)はレベル(マップ)全体を一度にメモリにロードしようとするからです。
この問題を解決し、プレイヤーにシームレスで快適な体験を提供するための鍵となるのが、レベルストリーミング(Level Streaming) です。本記事では、UE初心者から中級者に向けて、レベルストリーミングの基本から、大規模マップを最適化するための実践的なテクニックまでを徹底解説します。
レベルストリーミングの仕組みとメリット
基本概念
レベルストリーミングとは、プレイヤーの現在地やゲームの状況に応じて、必要なレベル(サブレベル)だけをメモリにロード・アンロードする 機能です。
大規模なワールドを一つの巨大なレベルとして扱うのではなく、複数の小さなレベル(サブレベル)に分割し、メインの永続レベル(Persistent Level)からそれらを管理 します。
| 要素 | 説明 |
|---|---|
| 永続レベル (Persistent Level) | 常にメモリにロードされているメインのレベル。ゲームの核となる要素(ゲームモード、UIなど)や、サブレベルの管理を行います。 |
| サブレベル (Sub-Level) | 永続レベルにロード・アンロードされる、マップの特定の部分(エリア、建物、ダンジョンなど)を構成するレベル。 |
メリット
レベルストリーミングを導入することで、主に以下のメリットが得られます。
- メモリ使用量の削減: 必要なアセットだけをロードするため、ゲーム全体のメモリ使用量を大幅に抑えられます。
- ロード時間の短縮: ゲーム開始時の初期ロード時間を短縮し、プレイヤーの待ち時間を減らします。
- シームレスな体験: エリアの切り替わり時にロード画面を挟むことなく、スムーズにゲームプレイを継続できます。
- チーム開発の効率化: マップを分割することで、複数の開発者が同時に異なるエリアの作業を進めやすくなります。
レベルストリーミングの実装方法
レベルストリーミングには、主に「ブループリント/C++による手動制御」と「ワールドコンポジション/ワールドパーティションによる自動制御」の2種類があり ますが、ここでは最も基本的な手動制御 による実装手順を解説します。
サブレベルの作成と設定
- レベルの作成: メインのレベル(永続レベル)とは別に、ストリーミングしたいエリアごとに新しいレベルを作成します(例:
SubLevel_Forest,SubLevel_Town)。 - 永続レベルへの追加: 永続レベルを開き、「ウィンドウ」>「レベル」からレベルパネルを開きます。
- サブレベルの追加: レベルパネルの「レベル」メニューから「既存のレベルを追加」を選択し、作成したサブレベルを追加します。
- ストリーミング方法の設定: レベルパネルでサブレベルを右クリックし、「ストリーミング方法を変更」から「ブループリント 」を選択します。これにより、後述のノードでロードを制御できるようになります。
ブループリントによるロード・アンロード制御
プレイヤーが特定のトリガーボリュームに入ったときにサブレベルをロードする処理を実装します。
ロード処理のBlueprint例
プレイヤーがトリガーボリューム(例: Box Collision)に入ったときにレベルをロードします。
// トリガーボリュームのイベントグラフ
// 1. On Component Begin Overlap イベント
// 2. Other Actor ピンから Cast To Character(または Player Controller から Get Pawn)
// 3. Cast成功時に Load Stream Level ノードに接続
// - Level Name: "SubLevel_Forest"
// - Make Visible After Load: True
// - Should Block on Load: False
アンロード処理のBlueprint例
プレイヤーがトリガーボリ ュームから出たときにレベルをアンロードします。
// トリガーボリュームのイベントグラフ
// 1. On Component End Overlap イベント
// 2. Other Actor ピンから Cast To Character
// 3. Cast成功時に Unload Stream Level ノードに接続
// - Level Name: "SubLevel_Forest"
ポイント: Should Block on Load を False に設定することで、ロード処理を非同期で行い、ゲームのフレームレート低下(カクつき)を最小限に抑えることができます。
最適化テクニックとベストプラクティス
レベルストリーミングは強力ですが、設定を誤るとかえってパフォーマンスを悪化させる可能性があります。ここでは、大規模マップで最大限の効果を発揮するための最適化テクニックを紹介します。
ロードのタイミングと距離の調整
最も重要なのは、プレイヤーが必要とする少し前にロードを開始し、不要になったらすぐにアンロードする ことです。
- ロード開始距離の調整: プレイヤーがレベルの境界に近づきすぎると、ロードが間に合わず、目の前でアセットが出現する「ポップイン」現象が発生します。トリガーボリュームをレベル境界よりも十分に手前に配置し、ロード時間を確保しましょう。
- アンロード距離の調整: プレイヤーがエリアを離れたら、すぐにアンロードしても問題ありません。ただし、プレイヤーが すぐに引き返す可能性がある場合は、少し遅延させてアンロードするなどの工夫が必要です。
よくある間違い:Should Block on Loadの多用
Load Stream Level ノードの Should Block on Load を True にすると、ロードが完了するまでゲームの実行が停止します。これは、ロード画面を挟む場合や、ロード完了が必須のイベント直前 など、限定的な状況でのみ使用すべきです。
ベストプラクティス:
大規模マップのシームレスな移動においては、必ず False に設定 し、非同期ロードを利用してください。ロード完了を待つ必要がある場合は、Load Stream Level の実行ピンから派生する Completed イベントを利用して後続の処理を実行します。
ワールドパーティションの活用(UE5以降)
Unreal Engine 5以降では、レベルストリーミングの進化形であるワールドパーティション(World Partition) が推奨されています。
ワールドパーティションは、大規模なワールドを自動的にグリッド状に分割し、プレイヤーのカメラや距離に基づいて必要なセルを自動でストリーミング・アンロードします。手動でのトリガー設定が不要になり、開発効率とパフォーマンスが大幅に向上します。
💡 ワールドパーティションと従来ストリーミングの使い分け
シナリオ 推奨手法 広大なオープンワールド ワールドパーティション(グリッドベースの自動ストリーミング) 室内シーン・ダンジョン 従来のレベルストリーミング(ドアや通路を起点とした手動制御) 特定イベントでのエリア切り替え 従来のレベルストリーミング( Load Stream Levelによる明示的制御)ワールドパーティションを使用する場合は、データレイヤー を活用してアクターのグループ化やストリーミングの制御を行います。基本的には手動の
Load Stream Levelではなく、グリッドベースの自動ストリーミングが前提となります。
UE5で大規模オープンワールドを扱う場合、特別な理由がない限りワールドパーティションの利用を強く推奨します。
ロード中のフィードバック
非同期ロード(Should Block on Load: False)を使用する場合でも、ロード処理はCPUリソースを消費します。ロードが始まったことをプレイヤーに伝える視覚的なフィードバック(例: 画面端に小さなアイコンを表示、ロード完了時の通知)を用意することで、プレイヤーのストレスを軽減できます。
レベルストリーミングの活用ポイント
レベルストリーミングは、Unreal Engineで大規模なゲームワールドを実現するための必須テクニックです。
| 要点 | 説明 |
|---|---|
| 基本 | マップ をサブレベルに分割し、必要なものだけをロード・アンロードする。 |
| 実装 | Load Stream Level / Unload Stream Level ノードをトリガーボリュームと組み合わせて使用する。 |
| 最適化 | Should Block on Load は False に設定し、非同期ロードを徹底する。 |
| UE5 | 大規模マップでは、手動ストリーミングよりもワールドパーティション の自動ストリーミング機能を優先的に検討する。 |
これらの知識とテクニックを活用し、プレイヤーがどこまでも探索したくなるような、カクつきのない広大なゲームワールドを構築しましょう。