Post Processによる映像の仕上げ
Unreal Engine (UE) を使って素晴らしい3Dモデルやライティングを設定したにもかかわらず、「なんだか映像がパッとしない」「プロの作品のような雰囲気が出ない」と感じたことはありませんか?
その原因は、多くの場合、最終的な映像の「仕上げ」 にあります。写真家がRAW画像を現像するように、UEのシーンも最終的な色調や雰囲気を調整する工程が必要です。この「仕上げ」の工程を担うのが、本記事の主役であるPost Process Volume(ポストプロセスボリューム) です。
本記事では、UE初心者〜中級者の方を対象に、Post Process Volumeの基本的な使い方から、映像品質を劇的に向上させるための実践的な設定項目までを徹底的に解説します。
Post Process Volumeとは
Post Process Volumeは、カメラが捉えた最終的な映像に対して、全体的な視覚効果(エフェクト)を適用するためのツール です。
これは、ゲーム画面全体にフィルターをかけるようなものだとイメージしてください。ライティングやマテリアルの設定が「素材」だとすれば、Post Process Volumeは「味付け」や「盛り付け」に相当します。
専門用語の解説:ポストプロセス
ポストプロセス (Post Process) とは、「レンダリングの最終段階(すべてが描画された後)」に行われる処理のことです。具体的には、画面全体の色調補正、露出調整、被写界深度(Depth of Field)、ブルーム(光の滲み)などのエフェクトを指します。
基本的な使い方
Post Process Volumeの使い方は非常にシンプルです。
ステップ1: シーンへの配置
- UEエディタの「プレイスアクタ」パネルから「ボリューム」カテゴリを選択します。
- 「Post Process Volume」 をシーンにドラッグ&ドロップします。
ステップ2: 効果範囲の設定(最も重要!)
配置しただけでは、ボリュームの境界内(デフォルトでは立方体)にカメラが入ったときしか効果が適用されません。シーン全体に効果を適用したい場合は、以下の設定が必要です。
- 詳細パネルで「Post Process Volume」を選択します。
- 検索窓に「unbound」と入力し、「Infinite Extent (Unbound)」 のチェックボックスをオンにします。
💡ベストプラクティス: シーン全体に効果を適用したい場合は必ずこの設定をオンにしてください。特定のエリア(例:洞窟、水中など)でのみ特殊な効果を適用したい場合にのみ、このチェックを外し、ボリュームのサイズを調整します。
主要な設定項目
Post Process Volumeには膨大な設定項目がありますが、映像の「プロっぽさ」を決定づける特に重要な項目を厳選して紹介します。
| カテゴリ | 設定項目 | 効果の概要 | 調整のポイント |
|---|---|---|---|
| Lens | Bloom (ブルーム) | 明るい部分の光を滲ませ、幻想的な雰囲気を出す。 | 強すぎると画面全体が白っぽくなるため、Intensity は控えめに。 |
| Exposure | Metering Mode | カメラの露出(明るさ)の測定方法。 | 通常はデフォルトでOK。手動で固定したい場合は Manual に設定。 |
| Exposure | Min/Max Brightness | 自動露出(Auto Exposure)の最小・最大輝度。 | この範囲を狭めることで、急激な明るさの変化を防ぎ、映像を安定させます。 |
| Color Grading | Global | 画面全体の色調補正。Saturation(彩度)、Contrast(コントラスト)などを調整。 | Contrast を少し上げるだけで、映像にメリハリが出ます。 |
| Rendering Features | Ambient Occlusion (AO) | オブジェクトの隙間や角に影を追加し、立体感を強調する。 | Intensity を上げすぎると、不自然に暗くなるため注意。 |
| Lens | Vignette (ビネット) | 画面の端を暗くし、視線を中央に誘導する。 | わずかに適用するだけで、映画のような雰囲気を演出できます。 |
実践的な活用例:色調補正で「雰囲気」を作る
映像の雰囲気を決定づけるのは、主に「Color Grading」の設定です。
例えば、「暖かく、ノスタルジックな雰囲気」 を出したい場合:
- Color Grading > Global > White Balance > Temp の値をプラス方向に調整して、全体を黄色みがかった暖かい色にします。
- Color Grading > Global > Contrast をわずかに上げ(例: 1.0 → 1.1)、メリハリをつけます。
- Color Grading > Global > Saturation をわずかに下げ(例: 1.0 → 0.9)、彩度を抑えることで、古びた写真のような雰囲気を演出します。
💡 UEのTemp値について
UEのColor GradingにおけるTempパラメータは、概念的には「色温度」の調整として機能します。 エンジンUI上の具体的な値や単位はバージョンや設定により異なる場合があるため、実際のエディタ上で値を調整しながら視覚的に確認する ことを推奨します。プラス方向で暖色(黄〜オレンジ)、マイナス方向で寒色(青)になる点は共通です。
よくある間違いとベストプラクティス
❌ よくある間違い
| 間違い | 説明 | 解決策 |
|---|---|---|
| Infinite Extent (Unbound) の見落とし | シーン全体に効果を適用したいのに、Unboundにチェックを入れ忘れている。 | 詳細パネルで Infinite Extent (Unbound) をオンにする。 |
| 設定値の極端な調整 | ブルームやコントラストを最大値近くまで上げてしまい、映像が破綻している。 | 調整は常に控えめに、少しずつ行い、効果が自然に見える範囲に留める。 |
| Auto Exposureの放置 | 自動露出(Auto Exposure)の範囲が広すぎて、カメラを動かすたびに明るさが急激に変化する。 | Min Brightness と Max Brightness の差を小さく設定し、露出の変化を緩やかにする。 |
✅ ベストプラクティス
- 必要なエフェクトだけを有効にする: Post Process Volumeの各設定項目は、デフォル トでは無効(チェックが入っていない状態)です。有効にしたエフェクトはすべてレンダリング負荷となるため、本当に必要なエフェクトだけを有効にする ことがパフォーマンス最適化の基本です。
- 複数のボリュームを使い分ける: シーン全体に適用する「ベースボリューム」(Unbound)と、特定の場所(例:暗い部屋、水中、SF的な空間)でのみ適用する「ローカルボリューム」(Unboundではない)を分けて使用します。ローカルボリュームには「Priority」を設定し、ベースボリュームよりも優先度を高くすることで、エリアに入った瞬間にスムーズに効果を切り替えることができます。
まとめ
Post Process Volumeは、Unreal Engineの映像表現を次のレベルに引き上げるための強力なツールです。
| 要点 | 説明 |
|---|---|
| 役割 | カメラが捉えた最終映像にフィルターをかける「仕上げ」の役割。 |
| 基本 | シーン全体に適用するには Infinite Extent (Unbound) をオンにする。 |
| 重要設定 | 露出(Exposure)、色調補正(Color Grading)、ブルーム(Bloom)を調整する。 |
| 最適化 | 必要なエフェクトのみを有効にし、設定値は控えめに調整する。 |
💡 UE5のLumenとPost Process Volume
UE5では、Lumen(グローバルイルミネーションとリフレクションのシステム)が導入されています。Post Process VolumeにはLumen関連の設定(
Global Illuminationセクション)があり、Lumenの品質や反射の精度を調整できます。ただし、基本的な映像の「見栄え」はPost Process Volumeで、光の物理シミュレーションはLumen/ライティング設定で という役割分担を意識することが重要です。Post Process Volumeだけで全てを解決しようとせず、ライティングの基本設計を先に行いましょう。
これらの知識を活用し、あなたのUnreal Engineプロジェクトの映像品質を劇的に向上させてください。