ステートマシン で歩きと走りをブレンドして、移動は一応作れた。でも、AAAタイトルのような、 急停止で足が踏ん張り、旋回で体が傾く、あのなめらかな移動 には程遠い。自分で何百ものモーションを用意して遷移を組むのは、個人開発ではとても現実的ではありません。
UE5世代の答えが Motion Matching です。そして嬉しいことに、Epic公式の Game Animation Sample(GASP) を使えば、 理論を全部理解しなくても、500以上のモーション込みの移動セットを自分のゲームに持ち込めます 。この記事では、Motion Matchingの考え方から、GASPを入手して自分のキャラを歩かせるところまでを、「作る」より「使う」に振って解説します。
Motion MatchingはUE5.4でProduction-Ready(実用段階)になり、GASPはUE5.4以降向けにFabで公開されています。以降のバージョンでも更新が続いているので、入手時の対応バージョンはFabの表示を確認してください。
この記事でわかること
- Motion Matchingとは: 大量モーションから毎フレーム最適な瞬間を探す
- 仕組みの登場人物(Pose Search Database・Chooser・Motion Matchingノード)
- Game Animation Sample(GASP) の入手と中身
- リターゲット で自分のキャラに差し替える
- State Machineとの 使い分け
- 実践: GASPに自キャラを入れて歩き・走り・急停止
Motion Matchingとは何か
Motion Matchingは、ステートマシン とは 発想が根本的に違います 。ここが出発点です。

- State Machine(遷移を書く): 「歩き」「走り」「停止」といった状態を作り、その間の遷移を手で組みます。用意した状態の数だけ、動きが決まります
- Motion Matching(最適な瞬間を探す): 大量のモーションを1つの データベース にまとめておき、 毎フレーム、今の入力と体勢に最も合う瞬間を、その中から探して再生 します
つまり、State Machineが「あらかじめ道筋を決めておく」のに対し、Motion Matchingは「その瞬間に一番自然な動きを、大量の候補から選び出す」。だから、急停止・旋回・始動といった 状態の狭間の動きが、驚くほどなめらか になります。手で遷移を書き切れない複雑さを、データベースからの検索で肩代わりする仕組みです。
仕組みの登場人物
Motion Matchingを支える部品を、役割だけ押さえます。深入りは不要で、「何が何をしているか」が分かれば十分です。

- Pose Search Database(ポーズ検索データベース): 大量のモーションを、検索できる形でまとめた 候補の集まり です
- Chooser(チューザー): 「今は戦闘中」「今は移動中」といった状況に応じて、 どのデータベースを使うか候補を絞り込み ます
- Motion Matchingノード: 実際に、毎フレーム 今に最も合う瞬間を選んで再生 する中心のノードです
流れは「Chooserで状況に合う候補を絞り、Motion Matchingノードがその中から最適な瞬間を 探して再生する」。GASPには、これらが最初から組まれています。だから、 仕組みを一から作らなくても、動く状態から始められる のが大きな利点です。
Game Animation Sampleを手に入れる
Motion Matchingを「使う」なら、Epic公式の Game Animation Sample(GASP) が最短です。500以上のモーションと、Motion Matchingの仕組みが最初から組まれた、無料のサンプルプロジェクトです。

入手はこうです。
- Fabで入手: Fab でGame Animation Sampleを無料で入手する
- Create Projectで作成: Fab Library から Create Project を選び、GASP入りの新規プロジェクトとして作成する
- 中身を見る: プロジェクトを開くと、デモレベルで、なめらかに動くキャラを実際に走らせて確認できる
ここで 注意したいのが容量 です。GASPは500以上のモーションを含むため、作成後は10GB前後になります。ダウンロードと作成で 15〜20GB程度の空き容量 を見ておくと安心です(正確な数値はFabの表示を確認してください)。まずはこのGASPプロジェクトを開いて、「これが自分のゲームに欲しいか」を体感するのが第一歩です。
自分のキャ ラに差し替える
GASPのデモキャラを、 自分のキャラクターに差し替えます 。ここで活きるのが、アニメーションのリターゲット です。

やることは、リターゲットの記事とまったく同じです。
- 自分のキャラクターに IK Rig を作る
- IK Retargeter で、GASPの骨格から自分のキャラの骨格へ、モーションを移し替える
- GASPのキャラを、自分のキャラに置き換える
これで、GASPが持つ500以上のなめらかな移動モーションが、 そのまま自分のキャラで動く ようになります。リターゲットの手順を一度知っていれば、Motion Matchingの中身を理解していなくても、自分のキャラを今風に動かせます。「移動の見た目を買う」という感覚に近いです。
State Machineとの使い分け
Motion Matchingは強力ですが、 すべてのゲームに必要なわけではありません 。従来のState Machineと、目的で使い分けます。

| こういうゲームなら | おすすめ | 理由 |
|---|---|---|
| 様式化された動き(2D風・ローポリ調・デフォルメ) | State Machine | かっちりした遷移で十分。容量も軽い |
| リアル調の移動が主役(三人称アクション・探索) | Motion Matching | なめらかさがゲームの魅力に直結する |
| 小規模・プロトタイプ | State Machine | 学習コストと容量を抑えられる |
| 移動の質を上げたい | Motion Matching(GASP) | 作らずに使える。土台を買える |
大事なのは、 移動の質がゲームの魅力に直結するか です。デフォルメされた見た目のゲームに、リアルな移動は要りません。逆に、リアル調の三人称アクションでは、移動のなめらかさがプレイ体験を大きく左右します。「作らずに使える」GASPは、後者にとって強力な近道です。
実践:自キャラで歩き・走り・急停止
三人称アクション、リアル調アドベンチャー、ソウルライクの探索移動。 「なめらかで重さのある移動」 は、リアル調のゲームの土台です。ここではその一周を、GASPプロジェクトに自分のキャラを入れて、デモレベルで走り回って確かめます。
作るのは、 GASPに自キャラをリターゲットで差し替え、歩き・走り・急停止・旋回を試せる 状態です。
動かすとこうなります。自分のキャラで走り出すと、始動の一歩に重さが出る。急停止すると、足がしっかり踏ん張って止まる。旋回すると、体が内側に傾く。これを、State Machine版 の自キャラと 同じ入力で並べて走らせる と、移動の質の差が一目で分かります。

手順
| ステップ | やること |
|---|---|
| 1. GASPを開く | Fabで入手したGASPプロジェクトを開く |
| 2. 自キャラを用意 | 差し替えたい自分のキャラクター(Skeletal Mesh)を用意 |
| 3. IK Rig | リターゲット の手順で、自キャラのIK Rigを作る |
| 4. Retargeter | GASPの骨格から自キャラへ、IK Retargeterでモーションを移す |
| 5. 差し替え | デモのキャラを自キャラに置き換え、デモレベルを走り回る |
確かめる
デモレベルで自キャラを走らせてください。うまくいけば、 急停止で足が踏ん張り、旋回で体が傾き、始動の一歩に重さ が出ます。State Machine版と同じ入力で並走させて、なめらかさの差を体感できれば成功です。
うまくいかないときの切り分けです。
- キャラがT字(Tポーズ)で固まる → リターゲットが効いていません。IK Rigのチェーン設定と、Retargeterの対応付けを確認
- 動くが足が滑る・地面に合わない → IK Rigの足のチェーンやルート設定。リターゲットの記事 の手順を再確認
- そもそもデモが重い・開けない → 容量とスペック。GASPは大きいので、空き容量とマシンスペックを確認
ポイントは2つです。
- 移動は買い、アクションは作る: Motion Matchingで手に入るのは「移動の見た目」です。攻撃やギミックは、これまでどおり Montage で自分で作ります。移動の土台を買い、その上に自分のアクションを乗せる、という役割分担が実践的です
- リターゲットが橋渡し: GASPと自キャラをつなぐのはリターゲットです。この手順さえ知っていれば、Motion Matchingの中身を理解しなくても、今風の移動を自分のゲームに持ち込めます
おまけ:先に知っておくと良いこと
カスタムモーションの追加は難しめ。 GASPの移動はそのまま使えますが、「自分だけの独自の移動モーション」を足すのは、Pose Search Databaseへの登録など、一段深い理解が要ります。まずは既存のモーションを使い倒し、独自追加はその先の課題にするのが現実的です。
容量と割り切り。 GASPは10GB前後と大きいので、「移動の質にこだわるゲームか」を先に判断してから導入します。プロトタイプや様式化されたゲームなら、State Machineのほうが軽くて扱いやすいことも多いです。 導入するかどうかを判断できること自体 が、この記事のゴールの1つです。
GASの技術と混同しない。 名前が似ていますが、GASP(Game Animation Sample)はアニメーションのサンプルで、Gameplay Ability System 等の「GAS」とは別物です。GASPは移動アニメの土台、と覚えておいてください。
まとめ
今風のなめらかな移動は、次の流れで手に入れます。
| 段階 | やること | 道具 |
|---|---|---|
| 理解 | 遷移でなく検索と知る | Motion Matchingの発想 |
| 入手 | サンプルを作成 | Game Animation Sample(Fab) |
| 差し替え | 自キャラで動かす | IK Rig / Retargeter |
| 線引き | 移動は買い、行動は作る | Montageと併用 |
そして貫く原則が、 「作る」より「使う」 ということです。理論を全部理解しなくても、GASPという土台を使えば、AAA級の移動を自分のゲームに持ち込めます。
これで、移動の質という壁を、1人でも越えられるようになりました。あなたのゲームは、移動のなめらかさが魅力に直結するタイプですか。もしそうなら、まずGASPを開いて、あの移動を体感してみてください。
さらに学ぶために
- AnimBPのステートマシンとブレンドスペース — 従来手法との対比
- アニメーションのリターゲット — 実践がそのまま依存する
- Animation MontageとNotify — Motion Matching導入後も使うアクション部分
- Fabでアセットを入れる — GASPの入手経路